父が「従業員愛すべし、組合叩くべし」と語るようになったことも印象深い。 もっとも、私自身は後継者となってから、組合は経営に欠かせない存在と感じるようになったのだが。
入学式の日、希望に満ちて講堂に集まった八十人の生徒は、近沢道元校長の訓示を聞いて度肝を抜かれた。
「今日から君たちを紳士として扱いますから、紳士に恥じない行動を取ってください」
きっと「今日から中学生ですから、よく勉強して下さい」と言われるものと思っていた。 昨日までの悪童どもは思いがけない言葉にびっくりすると同時に、背筋を伸ばしたのである。
マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の講義にも感銘を受けた。 それまで需要と供給の関係で動くのが資本主義経済だと思っていたが、その基盤として倫理が重要だという。 しかも倫理と宗教は切り離せないものだと教えられ、強く印象に残った。
マックス・ウェーバー
ドイツの社会学者、経済学者
「人間としての自覚があるものにとって、情熱なしになりうる全ては、無価値である」
「政治とは、情熱と判断力の二つを駆使しながら、
硬い板に力を込めてじわじわと穴をくり抜いていく作業である」
やる気があれば何でもできるのだと痛感した。 軍隊では嫌な思い出が多かったが、「何でもできないことはない。やればできる」と肝に銘じたことが大きな収穫だった。
能率を上げろと発破をかけるだけではいけない。 そう考えて、あえて能率を第二にしたのだという。 なるほど、と感心した。 どこの会社でも安全第一とは書いてあるが、能率第二とは書いていない。 第二を示すことで、本当に安全が第一であることが分かる。 ~中略~
何でも第一にする会社がよくあるが、それではいけない。 何が第一なのか、はっきりと優先順位を示す経営者にならなければ駄目だと痛感した。
「経営は進むばかりが能ではない。 引くことも大事で、逆櫓戦術も考えなければいけない」
逆櫓 (さかろ)
船尾を先にして進めるように艪(ろ){人力によって舟艇の推進力を得る為の装備}を
取り付けること。また、その艪。